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「NOが言えない」は生存戦略だった―生きづらいあなたのための優しい境界線の育て方

  • 執筆者の写真: kumada rie
    kumada rie
  • 5月13日
  • 読了時間: 6分

先日、第一回目の池田市ACOA大阪こころのケア講座が開催されました。ご参加くださった皆様に心から感謝申し上げます。また、主催してくださった池田市にも改めて感謝の意を表します。


自分と向き合い、様々な状況や人間関係をより良くしたいと真摯に取り組まれる女性たちの姿に触れるたびに、新たなつながりを感じることができ、私自身も大きな元気と勇気をもらっています。本当に貴重な時間となりました。

講座を通じて改めて考えたことをブログに綴りたいと思います。


トラウマからの回復の道を歩む中で、「境界線(バウンダリー)」という言葉は非常に重要なキーワードになりますね。

でも、「健全な境界線を持ちましょう」と言われると、なんだか少ししんどく感じてしまう…そんな経験はありませんか? 特に、子ども時代につらい経験(ACE:逆境的小児期体験)を乗り越えてきた私たちにとって、「NO」と言うこと、自分の周りに線を引くことは、とても難しく感じられることがあると思います。私自身がそうだったので、そのしんどさはすごくよくわかります。


今回は、そんな境界線の問題について少し違う視点から考え、回復への優しいステップについて一緒に見つめていきたいと思います。


「NO」が言えなかったのは、あなたが生き抜くための知恵だったのかもしれません


「Yes To Life, No To Drugs(人生にイエス、薬物にノー)」というスローガンをご存知でしょうか。日本では「ダメ、ゼッタイ」という後半部分が広く知られていますが、本来は「まず人生にイエスと言おう」という前向きなメッセージが込められているのです。


say yes to life no to drugs

この考え方に出会ったとき、依存症からの回復だけでなく、私たちが抱える境界線の課題にも大切なヒントが隠されていると感じました。


「健全な境界線が大切」と頭では理解していても、どうしても「NO」が言えない。相手を優先してしまう。断れない…。そんな自分を責めてしまうこともあると思います。


私がそうで、境界線を学んだ当初は「境界線を保てない私はダメだ、こんなやり方では私は変われない」と自分を責めていました。


しばらくそうやって責めることが続きましたが、トラウマケアを続ける中で「いくら自分がより良い方向になりたいからと言って、自分を否定して変わろうとするのは違う」ということに気付きました。私が私を否定して変わろうとするのは、私を傷付けてきた人たちと同じことを自分にしていることになる、と気付いたのですね。


それでは、何も変わりません。自分が自分を否定することはもっと苦しいことになってしまうと思いました。


だから、私は過食嘔吐する自分を否定するのをやめ、うまく人間関係を保てない自分を否定することもやめました。「認める」「褒める」というのもポジティブな感じがして受けつけなかったので、とにかく「私はこういうのが私なんだ」ただただ「知る」ところから始めました。(あきらめる、という感じも近いかもしれません)


すると、不思議なことに、どんどん楽になり、回復に向かって行ったことを覚えています。過食嘔吐するにしても「体に優しいものを食べようかな」という自分に対する優しさまで出てきて、「結局吐くのに」と、滑稽で笑ってしまったことも覚えています。私が私に対して「NO」ではなくて、「YES」と言い始めたところから、変化が始まったんだとよく覚えています。


大切にする

それからは、私はどんな自分も「今までの人生をサバイバルしてきた結果なんだ」と受け止められるように、少しずつ変わっていきました。


境界線についても同じです。もしあなたが子どもだった頃、自分の意見を言ったり、「いやだ」と伝えたりすることが危険な状況だったとしたら? 周りの人の顔色をうかがい、自分の気持ちを押し殺して相手の望むことをすることが、自分を守り、その場を生き延びるための唯一の方法だったとしたら…?


そう考えると、「NO」と言えなかったこと、境界線を持てなかったことは、決してあなたの欠点や弱さではなく、あなたが過酷な環境の中で必死に編み出した大切な「生き抜くための戦略」だったのです。


回復のはじまりは、まず自分自身に「イエス」と言うこと


だからこそ、回復の第一歩は「もっとしっかり境界線を持たなきゃ!」と自分に新たな「ダメ出し」をすることではなく、まずは「そうやって私は生き抜いてきたんだ」と、これまでの自分のやり方を受け入れることから始まっていくと思います。


「境界線が引けなかったのは、そうするしかなかったから。それが、私が生き残るために必要だった大切な方法だった」そう思っていただければと思います。


そうやって、自分自身に、そして自分のサバイバル戦略に、まず「イエス」と言ってあげる。自分を責める代わりに、よく頑張ってきた自分自身に気持ちを向けてあげる。


この自己受容、自分への「イエス」こそが、心が安心して健やかな変化に向かうための土台になると私は確信しています。


焦らなくて大丈夫。ゆっくり、一歩ずつ育んでいくもの


もちろん、健全な境界線を築いていくことは一朝一夕にできることではありません。特に、過去の経験から「NO」と言うことに強い恐怖や罪悪感を感じてしまうのは、自然なことです。何が「YES」で何が「NO」なのか分からない人もいると思います。


だから、焦る必要はありません。本当に、少しずつで大丈夫なのです。


初期段階で私がお勧めしているのは、「自分の好きなもの・大切なものが何かを感じ、大切にすること」です。最初から他人に「NO」と言うのは難しいと思うので、まずは「何なら自分はOKなのか」を感じるところから取り組むと始めやすいと思います。そして大切なものを大切にすることは、自分の境界線を守り、育むことにつながります。自分の「OK」を大切にしていくことで、少しずつ「NO」がはっきりしてきます。その後、自分にとって安心安全な相手に、簡単なところから「NO」を伝えていけるといいかもしれません(例えば店員さんにお水のお代わりを断るとか)。

コーヒーを飲む女性

小さな成功体験を積み重ねながら、少しずつ心地よい境界線を、ご自身のペースで育んでいただければと思います。



すべては自分への「イエス」から始まる


「ダメ、ゼッタイ」とただ「ノー」を強調するのではなく、まず自分自身の存在、経験、そして生き抜いてきた道のりそのものに「イエス」と言う。


そうして自分自身を肯定することから始める回復のプロセスは、きっとより自然で、穏やかで、確かな力になっていくと思います。それは「Yes To Life, No To Drugs」が本来伝えようとしていたメッセージ—ただ何かを否定するだけでなく、まず大切な自分自身を肯定し、大切にする選択をすること—と深く響き合っているのではないかと思います。


境界線の回復も、まずはあなた自身の「人生にイエス」と言うことから、一緒に始めていければと思っています。


あなたが、あなたらしく、安心して生きていくための一歩を、心から応援しています。


ACOA大阪では、自助グループや勉強会を開いて、共に癒し、学び、集う場をつくっています。ぜひご参加をお待ちしています。



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