あなたの中の"小さな傷"が実はトラウマかもしれない—スモールtトラウマの理解と癒し方
- kumada rie
- 3月25日
- 読了時間: 6分
トラウマは、「感情や理性では対応し切れないほど圧倒的な、身体的または感情的痛みを伴う経験に対応して起こる心身の反応」と言われています。その反応は個人差がありますが、代表的なものとして、再体験(フラッシュバックや悪夢など)、回避(トラウマを思い出させる状況や場所を避ける)、気分と認知の陰性変化、過覚醒(神経が過敏になり、緊張や驚きやすさが増す)などがあります。
トラウマというと、例えばひどい暴力を振るわれる、災害や事故に遭うなど、誰の目から見ても分かりやすく、命の危険に遭うようなものがトラウマになるというイメージがあります。しかし、このイメージが、私たちの傷付きに蓋をしてしまっている可能性があるのです。
トラウマの二つの形—「ビッグT」と「スモールt」
トラウマ研究の中では、トラウマの要因を「ビッグT」と「スモールt」に分けています。
ビッグT:誰の目にも明らかな出来事
戦争、他国からの侵攻
攻撃、暴力的な革命、テロ攻撃
自然災害(洪水、火災、台風、土砂崩れ、地震など)
性的虐待、身体的虐待
性暴力、家庭内暴力
乗り物事故(車、列車、飛行機など)
犯罪の被害にあう など
スモールt:慢性的で他人からは分かりづらい
他人から拒否、拒絶される
怒鳴られる
裏切られる
人格否定の言葉
恥をかかされる
無視される/侮辱される
いじめを目撃
信頼する人物から支配される
いじめ
大事なことに失敗する
両親の不仲を見る
きょうだいでの扱いの格差
容姿や体型への中傷
ストレスの多い職場や学校
パートナーや親の浮気
パートナーや親による共感の欠如
無理な期待をされる
「良い子、良い成績」を求められる
スモールtについては、多くの人が生きている中で何かしら経験することがあると思います。ほとんどの方が思い当たることがあるのではないでしょうか。

矮小化とは―傷つきを見えなくする心理
「矮小化」とは、自分の経験や感情を「大したことない」「他の人はもっと大変なはず」と過小評価してしまう心理的な防衛反応です。特にスモールtのトラウマは、目に見えにくく日常的に起こることが多いため、この矮小化が起こりやすいのです。「私にはトラウマなんてない」「こんなの、誰にでも起こることだからたいしたことない」と感じてしまい、自分の傷つきに気づかないまま過ごしてしまうことがあります。
積み重なるスモールt―見えない傷の影響
重要なのは、「小さな出来事でも、長い時間をかけて繰り返し起きるとトラウマを発症する危険性は十分にある」ということです。長い間、繰り返し起きることで「蓄積性トラウマ」と呼ばれるトラウマが形成されると言われています。
例えば、大人から「あなたはこれができないからダメね」といった言葉を何度も繰り返されたり、日常的にきょうだいと比較されたり、友達から無視されるといった経験が続いたりすると、それはトラウマになり得ると言われています。
ただし、トラウマは非常に個人差が大きいため注意が必要です。何をビッグTと感じるか、スモールtと感じるかも人によって異なりますし、どれぐらいの頻度でどのようなトラウマとして表れるかも違います。同じ体験をしても、ある人はトラウマを負い、別の人は影響を受けないということも十分起こり得ます。このため、一律に捉えてしまわないようにする注意が必要です。
見えない傷が及ぼす影響
スモールtが蓄積することで、本人の自覚がないまま、その後の人間関係や恋愛関係などに困難が生じることがあります。私の場合もそうでした。ひどい暴力を継続的に受けたわけではありませんが、「お前はダメだ」と繰り返し人格否定を受けたこと、「親の役に立つ子どもでなければ価値がない」と感じる態度を日々受けたことで、親から見捨てられているような感覚になり、トラウマを負ったと思っています。
心療内科医の鈴木裕介氏は著書の中で、トラウマについて次のように述べています。
「仕事の失敗やハラスメント、車の運転、転倒・怪我、病気・入院、ケンカや嘘をつかれるといった対人関係の摩擦、ありとあらゆることの出来事のウラにも潜んでいる可能性があります。」 「『この人はなぜこんなことをしちゃったんだろう』とニュースで話題になるような、理解に苦しむ行動の陰にもトラウマが関連していることが少なくありません。」 「難しい人間関係、治りにくい心の病気、世の中のありとあらゆる困難な事例の背景には、ほぼ確実にトラウマがあると考えていいと思っています。全ての人がなんらかのトラウマ反応を日常的に目撃したり体験したりしながら生きていると言っても過言ではないでしょう。」

自分では「たいしたことない」と思いがちな出来事がトラウマとなり、生きづらさに影響していることを認識したら、ケアが大切です。
セルフケアとしては、自分の感情を否定せずそのまま受け入れること、安心安全な環境や人間関係につながることや対話、そして自分に優しく語りかけたり、自分を丁寧に扱うことなどが基本となります。色々なセルフケアの方法をこのブログにも書いていますし、こころのケア講座でもご紹介しています。
必要に応じて、トラウマケアに詳しいカウンセラーや心理士に相談することも、回復への重要なステップとなります。
※医療にかかわる問題がある場合は、精神科、心療内科などを受診してください。
私がこのブログで伝えたいのは、誰もが心の中に大なり小なり傷付きを抱えている可能性が高く、また多くの場合、それを矮小化して隠してしまっている可能性が高いのではないか、ということです。「たいしたことない」と傷付きを放置していると、後に何かしらの困難になって表れてくることもあります。心の傷を軽く見ず、自分の心をケアしていくことが重要だと思っています。
自分の中の傷付きから目をそらさず、軽い傷付きであるなら絆創膏を貼るように、深い傷付きには包帯を巻くように丁寧に手当てしていくことが、当たり前に捉えられる社会になっていけば、生きづらさがもう少し緩和されるのではないかと思っています。
自分の傷付きは決して小さなものではないと認め、ケアすることは、自分自身への最大の思いやりだと思っています。セルフケアできることは、自己効力感につながるものだとも思います。(ただし、全ての経験をトラウマと解釈する必要は決してありませんし、自分自身や他人の行動をすべてトラウマの結果と考え過ぎないように注意して頂きたいです)

注意: この記事の情報は自己診断のためではなく、理解を深めるためのものです。トラウマの症状が日常生活に影響している場合は、専門家のサポートを受けることをお勧めします。深刻なトラウマ症状がある場合は、必ず専門家(心理士、精神科医、カウンセラーなど)に相談することをお勧めします。自己診断や自己治療は避け、適切な専門的サポートを受けることが大切です。
【参考文献】
あなたの苦しみを誰も知らない―トラウマと依存症からのリカバリーガイド クラウディア・ブラック著 金剛出版
がんばることをやめられない―コントロールできない感情と「トラウマ」の関係 鈴木裕介著 KADOKAWA発行
トラウマのことがわかる本―生きづらさを軽くするためにできること 白川美也子監修講談社健康ライブラリー
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