だから無過失補償制度が要る~子宮頸がんワクチン副作用問題から
子宮頸がんワクチンの副作用問題が大きく取りざたされ、被害者の家族らは接種の一時中止を要望しています。副作用被害を受けた被害者の方、ご家族の方のお気持ちを忖度するのは憚られますが、とてもおつらい状況で、どうしてこのようなことになってしまったのかというやり切れないお気持ちを抱えておられるのではないかと、思いを巡らせます。心から、お見舞いを申し上げたいと思います。
ただ、ワクチンに100%完全なものなどはなく、どうしても一定の割合で副反応は起き、重篤な後遺症となってしまう方もおられます。だからこそ、過失云々を言う前に、そういう状況に陥っている方々を素早く広く救おうという、無過失補償制度が必要だと、今改めて思っています。
各社の報道によると、子宮頸がんワクチンの販売が始まった2009年12月から今年3月末までで、アナフィラキシーや発熱などの副作用があったとの報告は1968件。このうち、全身の痛みや障害が残るなど、重篤だったと医療機関が報告したのは106件。この中でワクチンと因果関係があるとの報告は67件。厚労省は引き続き詳細な調査を進める意向だといいます。
私はこのニュースを見た時、「やっぱりこうなった」と思いました。人間がつくるワクチンには100%完全で、安全なものはありません。人間の体にも個人差があります。どうしても一定の割合で副反応は起きますし、中には残念ながら後遺症を持ってしまう方もおられます。しかしそれを完全に防ぐというのは、どうにも無理なのです。では、何か起こるかもしれないから、ワクチンがなければいいのかというと、皆がYESとは言わないと思います。
ワクチンは罹患した場合に重篤な症状を起こす危険性のある感染症などの疾病を防ぐために開発され、発売が認められるまでには国の厳しいチェックを何重にも受けています。WHOはワクチンの予防接種について、最も効果的かつ費用対効果の高い医療の1つであるとして、BCGやポリオなど10種類の定期接種を推奨しています。そのメリットを国民の多くが受けるわけですが、中にはごくわずかの副反応や、有害事象が起こってしまう場合があります(子宮頸がんワクチンの場合は、アナフィラキシーや発熱、体の痛みや、歩けなくなるなどの重篤な症状)。
日本では、これまでこうした問題が起きた時には国やメーカーの責任が問われてきました。B型肝炎訴訟やMMRワクチン訴訟なども記憶に新しいと思います。「こうなった責任は国が取るべきだ」「メーカーが悪いんだ」など、責任が追及され、裁判が起こされます。しかし、そういう裁判は長い年月を要し、その間に被害者や遺族には何の救済も行われません。被害者や家族の感情は慰撫されませんし、その間の医療費や生活費の負担も大きくのしかかり、時間と労力も必要です。また再発防止につながるかどうかも不明瞭です。
「裁判で責任を問う」という形では、被害者も家族も救済されないのです。また、国やメーカーも国民を不幸に陥れたいと思っているわけではなく、より多くの人たちが恩恵に預かれるようにと、ワクチンの開発や承認を進めるのです。手抜きやミスなどがあったなら問題ですが、ごくわずかに起こった原因の分からない副反応や有害事象の過失を問うことに、ないかもしれない過失を誰かのせいにして賠償金を払わせることに、どこまでの意味があるのでしょうか。それよりも、被害者や家族が素早く救済され、再発防止につなげていくことの方が、大事ではないでしょうか。「責任追及」と「被害者救済」は、別々の場所で行われるべきと思うのです。
ワクチン接種によるメリットは大きいですが、ごくわずかのデメリットを受けてしまう方も残念ながらおられます。だからこそ、そういう方々を皆で支え合おう、というのが「無過失補償制度」です。過失を問う以前に、まずその被害者や家族が救済される道があります。責任追及は、別の機関で行われます。そうすることで、国も世界標準となっているワクチンの承認に積極的になれます。
ワクチンによって起こるデメリットの中には、ワクチンとの因果関係が認められない、原因がよく分からないというものもあることも指摘されています。それであれば、なおさら過失を問うているのでは、被害者救済に至る道が狭く、時間がかかります。迅速な補償が大事だと思います。
日本にはそういった無過失補償制度はなく、そのために国も責任追及されることを恐れてワクチン承認に及び腰になります。日本が”北朝鮮並のワクチン後進国”などと揶揄される所以です。
アメリカやフランスなどの諸外国では、すでに無過失補償制度を導入しており、ワクチン接種後の有害事象で、後遺障害が残ったり、医療や介護が必要となったりした人への補償を行っています。
(参考・・・ロハス・メディカルブログ「村重直子の眼11 薗部友良・VPDを知って子供を守ろうの会代表(下)」) *医薬品の場合には「医薬品副作用被害救済制度」があります
今回の子宮頸がんワクチンの被害者の方、ご家族の方には、心よりのお見舞いを申し上げます。ワクチン接種を憎みたい気持ちになっておられても仕方のないことと思いを巡らせますし、このようなことをもう起こしてほしくないというお気持ちから、接種の中止を要望されているのだと思います。
そういう被害者やご家族のお気持ちが無にならないよう、また彼女たちが素早く救済される道があればと、強く思いました。
何度も言いますが、医療に関する事故が起こった際の、「被害者救済」「責任追及」「再発防止」は、別々に行われる仕組みを設けるべきです。そうでなければ、どれだけ医療が発達しても、医療提供体制が整備されても、必ずここでストップがかかります。
ワクチンだけでなく、抗がん剤を含む医薬品、一般的な医療についても、検討されていくべきと思います(そのはずだった産科の無過失補償制度は、別物の制度に姿を変えてしまいました)。医療事故調査組織の問題にもかかわるので、一筋縄ではないかないとは思いますが。
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