去る3月14日、大阪・蛍池の正福寺様で講演をさせて頂きました。テーマは「いのちを考える~医療の現場から見えるもの」。一般向けの講演だったので、今後の高齢社会を迎えるに当たり医療介護について何を知っておけばよいのか、何を考えておけばよいのかといったことを中心にお話しさせて頂きました。著書「救児の人々」や「胃ろうとシュークリーム」に出てきたご家族の話などを題材に今の医療現場が抱える問題をお伝えし、胃ろうについてのロールプレイも行いました。
ワークショップの様子
どんなテーマで話そうかとかなり悩みました。私が取材してきた延命医療などの話は、誰もに起こり得ることではありますが、いざその立場になってみないとなかなか考えないことでもあります。今の日本の医療が抱える問題は切実ですが、実感してもらうにはどうしたらいいかと思うと、悩みます。 そこで、医療問題の話の後に、想像しやすいように具体的な体の話をすることにしました。終末期に向かう体に起こり得ること(痛み、呼吸が止まる、栄養を摂取できなくなるなど)とそれに対する医療処置の種類など。国立長寿医療研究センターの「私の医療に対する希望」を例にお話ししました。
次に、延命医療に関する問題を実感していただくため、昨年この正福寺様でもさせて頂いたロールプレイを行いました。主治医に勧められるままに胃ろうを造設した認知症の妻、妻を介護してきた夫、息子、妻の主治医などの役割を演じます。ロールプレイは、最初は皆さん戸惑われますが、やっていくうちに「なぜ胃ろうが延命になってしまうのか」「どうしてこういうことが起こるのか」をすっと考えられるようになるようです。一般論だけでは聞き流してしまう話でも、ロールプレイを交えると「無関係ではない」と感じて頂けるようで、意外と好評なのです。終了後、「胃ろうが延命になる意味が分かった。でも自分も何も知らないからこうなると思う」「今のうちに考えられることは考えておこうと思った」などのご感想を頂きました。 確かに普段から考えておくことは大切ですし、いざとなった時に延命医療を行うかどうかは家族や大切な人たちと話し合っておいて頂きたいと思います。私もそうするようにしています。ただ、それ以外の医療や介護の話は、情報を得ておくといっても何をどう知っておけばいいのか分からないと思います。私もこんな仕事をしていなかったら、高齢者施設の見分けもつかないでしょう。だからこそ、「相談できる場所」を見つけておくことが大事だと、こういう講演の時にはいつも話します。どこが「相談できる場所」なのか、人によって地域によってバラバラだと思います。地域包括支援センターであったり、介護家族のつどい場だったり、近所のカフェだったり、ご近所さんの集まりだったり、ネット上の信頼できるコミュニティだったり……。人によって違うからこそ、そういう「場所」だけは、アンテナを張って探しておいてほしいと思うのです。こればかりは、いざとなってから探すのは大変です。そして、「かかりつけ医」です。自分や家族の医療について、信頼して相談できるかかりつけ医を必ず持ってもらいたいという話をします。 これからの医療・介護は情報合戦の時代だと、私は思っています。医療介護のサービスにばらつきがあり、手薄にならざるを得ない状況もある時代です。望む医療や介護を受けられるようにすることは、簡単でないと思っています。だからこそ、医療情報には「場」を、より良い医療を受けるには「かかりつけ医」を。ここだけは押さえておいてもらいたいと思っています。
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