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なぜ『してもらう』だけでは回復しないのか?-トラウマが奪った3つの力を取り戻す方法

  • 執筆者の写真: kumada rie
    kumada rie
  • 7月14日
  • 読了時間: 6分

私たちは被害を受けた女性たちに向けて、トラウマの仕組みやセルフケアの方法などについてお伝えする「こころのケア講座」を開いています。私自身の回復過程においてこの講座がとても役に立ったので、多くの女性たちに伝わってほしいと思い、研修を受けてこの講座を開いています。

こころのケア講座は、単純に心の仕組みについて学ぶだけでなく、私たちの傷付きの根っこにある「無力感」を減らし、「自分の力で生きていこう」という力を育んでもらえるように考えて提供しています。

どうして講座を受けることが「生きる力を育む」ことになるのか、お伝えしたいと思います。


トラウマが私たちから奪っていくもの

トラウマには大きく3つの特徴があると言われています。ただし、これらの現れ方や程度は人によって異なります。


1. 無力感 「私には何もできない」「どうすることもできない」「あきらめるしかない」という感覚

2. 孤独感 「誰も理解してくれない」「私は一人ぼっち」という感覚

3. 恥(シェイム)の感覚 「自分が悪い」「自分には価値がない」という感覚

これらの感覚は、私たちが本来持っている「前向きに生きていこうとするエネルギー」を深く傷つけてしまうことがあります。「明日も生きてみよう」「何か新しいことをやってみよう」「誰かと関わってみよう」という、内側から自然に湧いてくる生きる力が、トラウマによって損なわれてしまうのです。

傷付いたハート

なぜ「してもらう」だけでは難しい?

トラウマを負った直後は、専門家や周りの人からの支援がとても大切です。専門的な医療やカウンセリングが継続的に必要な場合も多くあります。

一方で、人によっては、その支援を「してもらう」だけの関係と捉えていると、継続が難しくなる場合があるかもしれません。

それは、回復の過程において「自分で自分を癒したい」「自分らしく生きたい」という気持ちが重要になってくるからです。この気持ちは、人から与えられるというより、自分の中から湧き上がってくるものです。

個人差がありますが、回復の過程では「受け身の状態」だけでなく「能動的な状態」が混ざっていくことが大切になると言われています。もちろん、専門的なサポートを受けながら、自分のペースで進めていくことが重要です。


私たちが本来持っている3つの力

心理学では、人間が前向きに生きていくために必要な3つの基本的な力があるという考え方があります。

1. 自分で決める力(自発性) 「やらされている」のではなく「自分でやりたい」と思って行動する力

2. できるという感覚(有能感) 「自分にはできる」「少しずつでも成長できる」という感覚

3. つながる力(関係性) 「一人じゃない」「理解し合える人がいる」という感覚

トラウマは、まさにこの3つの力に影響を攻撃してくると言われています。そのため、回復には、この3つの力を取り戻していくことが大切だと考えられています(この三つを詳しく知りたい人は「自己決定理論」「内発的動機付け」などの言葉で検索してみてください)。

育む

こころのケア講座が「生きる力」を育む理由

私たちのこころのケア講座は、単に知識を提供するだけでなく、トラウマによって傷つけられた「自分で決める力」「できるという感覚」「つながる力」を、参加者の皆さんが本来の自分の中に見つけ、育んでいけるように、様々な工夫を凝らして提供しています。


1. 「自分で決める力」を育む

暴力や支配的な関係の中では、「自分で決める」という当たり前の権利が奪われてしまいます。その逆の体験をしてもらうことが、回復の大きな力になることがあります。

  • 講座は遅刻や早退、途中で休憩することも自由です。

  • ワークがありますが、書きたくなければ書かなくても構いません。ワークをしなくても大丈夫です。

  • 私たちは「こうすべき」という答えを提示するのではなく、ファシリテーター(進行役)として、「答えは皆さんの中にある」という姿勢で、皆さんがご自身のお気持ちと向き合うお手伝いをします。

一つひとつの選択をご自身で決めるという体験そのものが、自分の人生の主導権を取り戻す一歩となることがあります。


2. 「できるという感覚」を育む

トラウマ体験は、「自分は無力だ」という感覚を植え付けることがあります。講座では、小さな「できた」という感覚を大切に育んでいきます。

  • 暴力の構造やトラウマの影響について知ることで、「自分のせいではなかったんだ」「こういう仕組みだったのか」と混乱した気持ちが整理され、状況を客観的に捉える力がつくことがあります。

  • 講座で学んだセルフケアの方法を、日常の中で少しずつ試してみることで、「自分にもできることがある」という自信が育っていくことがあります。

  • 私たちは、どんな状況にあっても、誰もが生き延びようとする素晴らしい力を持っていると信じています。「あなたの中には、回復し、輝く力がある」というメッセージを伝え続けます。


3. 「つながる力」を育む

暴力は、私たちを孤立させることがあります。講座は、安心できる人とのつながりを取り戻すための場所です。

  • 講座は、支援する側・される側という上下関係ではなく、同じ場で共に学ぶ対等な関係を大切にしています。

  • 講座終了後に、希望者が参加する自助グループを開いています。話す話さないは自由です。参加者同士で思いや体験を共有することで、自然なつながりが生まれます。

  • 「一人ではないんだ」と感じられること、「分かってもらえる」という体験が、孤立感を和らげ、回復への大きな支えとなることがあります。


回復は「自分で歩む道」

支援者や専門家の役割は、とても大切です。継続的な医療やカウンセリングが必要な場合も多くあります。でも、最終的に回復の道を歩むのは当事者である私たち自身です。

支援は、最初は「してもらっている」と感じることが多いかもしれません。でも、回復が進むにつれて、私たちの「自分で生きていこう」という力を私たちと支援者の双方が信じ、育くんでいく関係だと気付いていけると思います。

私たちの自助グループが目指している「ありのままの自分で、自分らしく、心地よく、穏やかに生きていこう」という目標も、まさに内側から湧いてくる「生きたい」という気持ちを大切にしたものです。

ハート

トラウマによって傷ついた私たちの「生きる力」は、永遠に失われてしまうものでは決してありません。適切な環境と、専門的なサポートを受けながら、少しずつでも自分で選択し、行動し、つながることで、その力は回復していく可能性があります。

回復のスピードや形は人それぞれで、時間がかかることもあります。無理をする必要は決してありません。

こころのケア講座や自助グループでの学びは、そんな私たちの中にある力を信じ、育むための大切な場として開いています。私たち一人ひとりのペースで、一歩ずつ、自分らしい回復の道を歩んでいけるように、心から願っています。

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