top of page

なぜフラッシュバックでは"今"と"過去"の区別がつかないのか

執筆者の写真: kumada riekumada rie

最近、報道で性加害の問題が取り上げられることが増え、「フラッシュバック」という言葉をよく耳にするようになりました。


フラッシュバックとは、何かのきっかけで過去の出来事が、まるで今起こっているかのように感じられる現象です。心臓がドキドキする、冷や汗が出る、体が硬直するなど、まるでその時に戻ったかのような身体反応が起きます。例えば、交通事故の現場を通ると当時の記憶が鮮明によみがえってきたり、そこを通れなくなったりすることがあります。 私の場合、実家の玄関を開けると呼吸が浅くなって体が強張り、父の前では冷や汗が出て声が出なくなります。


不思議なのは、もう過去の出来事なのに、まるで今起きているかのように体が反応することです。トリガー(引き金)となる出来事があれば、時と場所を問わず起こるため、日常生活に支障をきたすこともあります。


なぜ、過去のことなのに今起きているように感じるのでしょうか。それは脳の仕組みが関係していると考えられています。


現在の脳科学研究によると、トラウマに関係する脳の領域は、大きく3つに分けられます。


  1. 大脳新皮質(図の③): 普段の論理的思考を担当する領域で、時間の感覚を処理する部分です。

  2. 大脳辺縁系(図の②): 感情の処理や、安全・危険の判断に関わる領域です。時間の感覚の処理は、この部分では異なる形で行われると考えられています。

  3. 脳幹(図の①): 生命維持、生存反応、反射などの基本的な機能を担当する領域です。

    脳の図
    NPO法人レジリエンス「こころのcare講座」ファシリテーター養成研修資料に文字を追記

解説書には、「大脳辺縁系には考える力はなく、思考力はゼロです。時間の感覚も持ち合わせておらず、過去も未来もありません。過去の思い出、未来への希望、将来への不安などは、すべて同じ引き出しに入っていて区別がつかないのです」とあります。(「あなたの苦しみを誰も知らないートラウマと依存症からのリカバリーガイド」より抜粋)


また、大脳辺縁系にある扁桃体は、トラウマ反応に重要な役割を果たすことが研究で分かってきています。扁桃体は危険を察知し、体に警戒信号を送る働きがあると考えられています。この部分は過去の経験を基に危険を予測したり、将来の危険に備えて不安反応を起こしたりする可能性があります(ただし、この分野の研究は現在も進行中です)。


トラウマとなる出来事が起きた時、大脳辺縁系と脳幹が協調して働き、私たちの身体は「逃げる」「戦う」「凍り付く」といった反応を示すと考えられています。例えば、山でクマに出会って絶体絶命と思った時に、逃げるか、戦うか、凍り付いて「死んだふり」をするか、といような形です。


その時に処理しきれなかった恐怖や混乱などの感情は、心の中に残ることがあります。これらの感情の強さや影響は個人差が大きいと言われています(適切なケアや治療により変化する可能性があります)。


声や音、匂い、景色、似た状況など、その時の記憶を呼び起こすものがトリガーとなり、現在が安全な状況であっても、脳が防衛反応として身体反応を引き起こすことがあります。これがフラッシュバックと呼ばれる現象です。解説書ではフラッシュバックを起こす脳と時間の感覚の関係について、「大脳辺縁系と爬虫類脳は時間の感覚を持っていないことを思い出してください。すべては『今』なのです。重大なトラウマを抱えた人が、過去を引きずっているように見えてしまうのはこのためです。」と説明されています(「あなたの苦しみを誰も知らないートラウマと依存症からのリカバリーガイド」より抜粋


これは私の解釈ですが、フラッシュバックによる防衛反応などトラウマに関わる脳(大脳辺縁系、脳幹)は時間の感覚がないので、私たちが日常生活を送る時に使う脳(大脳新皮質)をのっとってフラッシュバックを起こしている時は、今目の前で恐ろしいことが起こっているような感覚になってしまうのかもしれません。


フラッシュバックの反応は個人差が大きく、感じ方も人それぞれ異なります。「もう終わったことだよ」「過去のことだから忘れなさい」などの言葉は、フラッシュバックをコントロールできない本人の無力感を増悪させてしまうかもしれません。フラッシュバックに悩む人が周りにいたら、論理的な声かけは苦しみを悪化させる可能性もあると知っておいていただければ、と思います。代わりに、五感を使って「今、ここ」に戻る「グラウンディング」(トラウマケアの基本「グラウンディング」とは?効果と練習方法を解説―の記事で説明しています)という技法が効果的とされています。私も、今でもグラウンディングを続けています。


次回は、フラッシュバックから「今、ここ」に戻っていく具体的な練習方法についてお伝えしたいと思います。


※もしフラッシュバックによって日常生活に支障が出ている場合は、トラウマケアの専門家に相談することをお勧めします。


【参考資料】

NPO法人レジリエンス「こころのcare講座」ファシリテーター養成研修資料

NPO法人アコア「こころのケア講座」

「あなたの苦しみを誰も知らないートラウマと依存症からのリカバリーガイド」クラウディア・ブラック著:金剛出版2021年

•「がんばることをやめられない―コントロールできない感情と『トラウマ』の関係」鈴木裕介著KADOKAWA2023年



コメント


コメント機能がオフになっています。

特定非営利活法人パブリックプレス

大阪府・北摂地域

  • X
  • Facebook
  • Instagram
  • Line

©2022 特定非営利活動法人パブリックプレス Wix.com で作成されました。

bottom of page